効果的に遺言状を書く方法

【文例付】

遺言状の書き方は様々です。

自筆証書遺言や公正証書遺言問わずに
相続対策のために正しい遺言状の書き方をマスターしましょう。

遺言状を自分で作る方法

自筆証書遺言を書く際のルール(大前提)

このルールは民法で以下の通り決められております。
1.全文すべてを自書する。
2.日付を自書する。
3.氏名を自書する。
4.押印する。※認印でも可だが、実印が望ましい。

【ケース1】預貯金の遺言の書き方

【預貯金の文例】ケース別

よくある質問「複数の銀行に預貯金があります。これらを子供たちにどのように相続させるか遺言を書きたいです。しかし、私が死亡した時の預貯金残高は定かではありません。どのようにかけばよいでしょうか。注意点を教えてください。」

2つのパターンがあります。
1つが銀行ごと・支店ごと・銀行口座ごとに相続する人を指定する方法
2つが預貯金全部を合計した金額を割合で相続する人を決める方法

前者の場合・・・

【銀行ごとに分ける場合】
以下文例

遺言者は死亡時に有する○○銀行のすべての預金を長男●●に相続させる。
遺言者は死亡時に有する▲▲銀行のすべての預金を次男□□に相続させる。

【同じ銀行支店の口座ごとに分ける場合】
以下文例

遺言者は死亡時に有する下記口座の預金を長男●●に相続させる。
○○銀行××支店 普通預金 口座番号 123456
遺言者は死亡時に有する下記口座預金を次男□□に相続させる。
〇〇銀行××支店 普通預金 口座番号 654321

この方法を利用するメリットは遺言を書いた後も、銀行口座の残高を調整し、長男と長女に相続させる金額を変更できることです。
つまり、遺言を書き換える必要がございません!
一方のデメリットとして、遺言者のの意思能力が衰えた場合、老後費用(介護費用、老人ホーム入所費用等)をどの銀行口座から引き出すか自分で決められず、遺言者の意図に反した口座残高になるリスクがあることです。
こうなると、被相続人間の紛争の火種となりえます。

後者の場合・・・
以下文例1

遺言者が死亡時に有するすべての預貯金の合計額の〇分の△を長男●●に、〇分の✕を長女□□に相続させる。

この方法の場合ですと、死亡時までにどのように預貯金を使っても相続させる割合は変わりません。しかし、預金残高を調整して残す金額を変えることはできません、

そこで、残額が減っても長男に最低相続させる金額を確保したいときは、以下文例2のように書くべきでしょう。

以下文例2

遺言者が死亡時に有するすべての預貯金の合計額の〇分の△を長男●●に、〇分の✕を長女□□に相続させる。
ただし、上記計算により長男が相続する預貯金が〇〇万円以下の場合は、〇〇万円を長男に相続させ、残額を長女に相続させる。死亡時に有するすべての預貯金が〇〇万円以下の場合は、すべての預貯金を長男に相続させる。

【ケース2】遺言に条件・期限をつける

【条件・期限付遺言の各種文例】ケース別

そもそも遺言状は、遺言者ご本人の意思や要望を実現するものです。その意向を実現するためには交換条件を記載することでよりスムーズにご意思は実現するでしょう。
法定遺言事項として法律で規定されておりますので、法律を使いこなした上で遺言書を作成することが非常に重要かつ損をしないです。

大きく4つのパターンがあります。
1つが停止条件付遺贈(民法985条2項)
2つが解除条件付遺贈(民法985条1項、127条2項)
3つが始期付遺贈(民法135条1項)
4つが終期付遺贈(民法135条2項)

【停止条件付遺贈の文例】
遺言者は、甥の〇〇(遺言者の兄□□の長男)が婚姻したときに下記不動産を、同人に遺贈する。

【解除条件付遺贈の文例】
遺言者は、下記不動産を、甥の○○(遺言者の兄□□の長男)に遺贈する。ただし、同人が農業をやめたときは、上記遺贈は効力を失う。

【始期付遺贈の文例】
遺言者は、遺言者の死亡後5年を経過した時に、下記不動産を甥の○○(遺言者の兄□□の長男)に遺贈する。

【終期付遺贈の文例】
遺言者は、遺言者の死亡後5年間だけ、下記不動産から生じる家賃収益全額を、甥の○○(遺言者の兄□□の長男)に遺贈する。

このように、遺言書で実現したい内容の時期をずらしたり、農業を継がせたい場合など、けん制効果をつけることができます。
これにより、家業の継続や実現したい意思を受贈者に履行させる効果が期待できます。
やはり、生前に思いを遺言書で整理をすることこそが、その方の残りの豊かな人生設計の真骨頂であると考えます。

【ケース3】不動産の書き方

必ず不動産登記簿謄本を取得しましょう

【文例】
第1条 遺言者は、その所有する下記不動産を、遺言者の長男〇〇に相続させる。




所 在 ○○市△△町1番地の1

家屋番号 1番1

種類 居宅

構造 木造瓦葺平屋建

床面積100.00㎡


以上のように、不動産の登記簿謄本の情報を記しましょう。
単なる住所では特定できず、遺贈ができないおそれがあります。

【ケース4】予備的遺言の活用方法

長女に渡したいが、万が一遺言者より

長女が先に亡くなったら?

そもそも予備的遺言の機能は、遺言者が、例えば長女に全財産を相続させると遺言しても、長女より先に亡くなるとは限らないため、長女がもし遺言者よりも先、あるいは同時に死亡した場合には長女に相続させるとした財産を誰に相続させるかを遺言で記載しておいて万全を期する点にあります。

このように、遺言書の死亡以前に相続させる相手が死亡してしまった場合は、その者に相続させることができないので、予備的に他の者に相続させると遺言で明示するのが、「予備的遺言」です。

上記事例でいけば、孫に予備的遺言をする場合です。

【文例】
遺言者は、その所有する全財産を長女に相続させる。ただし、遺言者が死亡する以前に長女が死亡した場合は、長女に相続させるとした全財産は、長女の長男○○(〇年〇月〇日生)に相続させる。

【ケース5】付言事項の活用方法

遺言状における付言事項の書き方

「付言事項」とは、法律に定められていないことを遺言でする事項のことをいいます。
法律に定められた事項(法定遺言事項)についてされた遺言は、法的な効力を有しますが、付言事項についてされた遺言は、法的な効力を生じません。
したがって、「遺留分侵害額請求をしないでください。」と記載しても法的拘束力は生じません。
では、何の意味があるか?
それは、遺言者の意思が尊重される可能性を高める点に意義があります。
付言事項の具体例は以下のようなものがあります。
・葬式の方法
・死後の献体
・家業の発展、家族の幸福の祈念
・家族・兄弟姉妹等間の融和の依頼
・家訓の遵守方法など
・遺留分への配慮希望
法的に効果はありませんが、遺言者の心を相続人に伝えることができます。
状況次第ですが、遺言者の気持ちや想いが相続人に伝われば、遺留分侵害額請求を防ぐ効果も期待できます。
つまり、付言は法律に温もりを与えます。本文とセットで書くことをお勧めします。

【文例】看護などの面倒を積極的にしてくれた次女に対しての付言
「次女のAは、認知症の母の面倒を長い間看てくれました。母が亡くなった後は、私の世話を一生懸命にしてくれています。そのためにAは婚期を逃してしまいました。Aを私たちの犠牲にしてしまったような気がしてなりません。私亡き後、独り身のAのことが心配でなりません。私の財産は自宅の土地と建物しかありません。この土地を次女Aが相続し、売却して自分の老後のために役立ててほしいと遺言を作りました。どうか私を安心させてください。
他の兄弟たちも私の気持ちを察してくれることを切に願います。」

このように、温もりを遺言書に吹き込むことで、相続人間の感情を冷静にさせてくれる効果が見込めます。
個人的には遺留分を侵す遺言書であれば必ず、付言事項で事情や経緯を示しておくことをオススメしたいです。
また、付言事項で経緯を事細かに記すことで

【ケース6】包括遺贈の文例

全部包括遺贈
『遺言書は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の姉A(昭和○年○月○日生)に包括して遺贈する。」

一人の者に対する割合的包括遺贈
『遺言者は、遺言者の有する一切の財産の2分の1を、遺言者の兄B(昭和○年○月○日生)に包括して遺贈する。』

★効果
⇒包括受遺者は、遺産上の一定の割合の権利を有する点で相続人類似の立場となります。
この点、民法は、相続人と同一の権利義務を有する者としています(民法990条)。
したがって、包括受遺者は、遺贈者の一身専属する権利をのぞき、遺贈者が死亡したときに、遺贈された割合による相続人と同様に直接取得し、遺贈者の債務も承継されます(民法896条)。

このことから、借金などが存在する場合は包括遺贈ではなくて、特定遺贈による方が好ましいといえるでしょう。

【ケース7】遺言による保険金受取人の変更

【文例】
第○条 遺言者は○○生命保険相互会社との間で締結した下記生命保険契約の生命保険金の受取人を(妻甲から)長男乙に変更する。



①契約締結日 令和○年○月○日
②記号・番号 記号○○○○、番号××××
③被保険者 遺言者
④保険金額 ○○万円

第○条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、前記長男乙を指定する。
2   遺言執行者は、遺言者の死亡後、○○生命保険相互会社に対し、すみやかに保険金受取人変更の通知をするとともに、所定の手続きをする。

【ケース8】負担付相続させる遺言の書き方

これは遺産を相続させる代わりに、その受益相続人に一定の負担を課する内容の遺言を、『負担付相続させる遺言』といいます。
例えば、土地を相続させる代わりに農業を息子に続けさせる場合などです。

【文例】長男に自宅を相続させて妻の世話をすることを負担とする場合
第○条 遺言者は、遺言者の有する次の財産を長男A(生年月日)に相続させる。
①自宅土地・建物
②○○銀行○○支店の定期預金(口座番号)
第○条 長男Aは、前条の財産を相続するこもの負担として、遺言者の妻B(生年月日)と同居し、同人の生存中はその生活費、医療費等を負担し、身辺の世話をすること。

このように、負担付にすることで遺言者の気持ちを実現できる効果が見込めます。

この負担付の義務を履行しない場合どうなるか。
その場合は、相続人と遺言執行者が負担の履行を請求することとなります(民法1027条参照)。
流れとしては、相続人・遺言執行者は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができ、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に関する遺言の取消を家庭裁判所に請求する形となります(民法1027条)。

【ケース9】遺留分減殺請求の方法の指定(民法1034条但書)

複数の受遺者に対する複数の遺贈の場合、又は一人の受遺者に対する複数の遺贈における遺留分減殺請求に備えて、前者のときは、特定の受遺者に対する遺贈から減殺するように指定すること、後者のときは、分割が難しい不動産ではなく預貯金等から減殺するように遺留分減殺の順序をしておくことに加え、数筆の不動産があるとき減殺の順序を指定しておくことができます。また、遺贈物件のうち、特定の物件は減殺の対象としない旨を遺言に明示しておけば、その物件は減殺の対象としないことができます。
【文例】遺留分減殺の方法の指定①
遺留分減殺請求があったときは、まず長男●●(生年月日)に遺贈すべき財産から減殺するものとする。

【文例】遺留分減殺の方法の指定②
第〇条 遺言者は、その所有する財産のうち、下記不動産を遺言者の妻●●(生年月日)に相続させる。

(不動産の表示)
第〇条 遺言者は、前条記載の不動産を除く、遺言者の有する財産全部を、遺言者の長男○○(生年月日)に相続させる。
第〇条 遺言者の二男○○(生年月日)から遺留分減殺請求があった場合は、長男の相続すべき財産についてのみ減殺し、妻の相続すべき財産については減殺しないこととする。

以上のように、受贈者の財産状況に応じて、遺留分減殺の順序を定めておくことで、
財産の乏しい受贈者の保護を図ることも可能です。

このように遺言状には法律上のテクニックを使いこなすことで効果を飛躍的に高めることが可能です。

【ケース10】在日外国人が日本で遺言をする場合

この場合、遺言の方式の準拠法に関する法律に則って、在日外国人が、日本法の方式で遺言をすれば、日本では有効な遺言となります。
そして、在日外国人が日本で遺言をする場合には、国籍のある大韓民国の民法で認められている方式で遺言をすることもできます。
したがって、日本では、遺言書を作らずに録音で遺言をしても無効ですが、
大韓民国民法1067条では、遺言者が遺言の趣旨、その姓名と年月日を口述して、これに参与した証人が遺言が正確である旨とその姓名を口述することで、録音の遺言も有効とされているので、この韓国の方式にしたがい遺言状を作ることもできます。

ですが、成立及び効力ともに日本法に従ったものとしたい場合には、遺言の中で、準拠法として日本法を指定することが必要です(大韓民国国際私法49条2項1号)。

【文例】
第〇条 遺言者は、遺言者の相続の準拠法として常居所地法である日本法を指定する。

これにより、日本法にしたがい遺言書の効力を発揮することができます。

【ケース11】認知したい場合

大前提として、法律上の婚姻関係にある男女から生まれた子を「嫡出子」といい、法律上の婚姻関係のない男女から生まれた子を「非嫡出子」といいます。そして、非嫡出子の母子の関係は、分娩の事実があれば認められます。これに対して非嫡出子の父子の関係は、父の認知があって初めて認められます(民779)。

ご相談を受ける中で、婚姻外の女性に自分の子を産ませた男性より、「認知をして非嫡出子の父子関係を確定して子に相続権を分け与えたいと考えているものの、現在の家庭が崩壊しかねないので、踏みとどまってます。どうしましょうか。」
というような相談を受けることが多々あります。
そこで、ご提案するのが遺言書を書くことです。

以下、文例です。
【子の認知】
遺言者は、本籍・○○○○(生年月日)を認知する。
【胎内にある子の認知】
遺言者は、本籍・○○○○(生年月日)が現に懐胎している子を認知する。

遺言状を書くことで子の権利を守ることが可能です。

【ケース12】自筆証書遺言の日付の書き方


まず問題です。
「令和2年1月吉日」という日付を自筆した場合、法的に有効となるでしょうか。

答えは、NOです。遺言状を作ったとしても無効です。

なぜなら、そもそも自筆証書遺言において日付の辞書が要求された趣旨(民法968Ⅰ)は、遺言作成時における遺言者の遺言能力の有無についての判断や、複数の遺言が存在する場合の各遺言の作成時期の前後関係を明らかにするといった遺言の成立時期を明確化する点にあります。

また、そもそも民法では遺言者はいつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができるとしているので(民1022)、各遺言の成立時期の明確化を要求しています。

とすると、吉日遺言については、特定の日付を表示したとみることができず、
この自筆証書遺言の法の趣旨に反しているため、無効と解されます。

このように遺言状をご自身で書いた場合、法律のルールを把握できていなかったときの
代償は大きく、せっかくの遺言状が無効となっては元も子もありません。

【ケース13】推定相続人排除の書き方


まず、推定相続人の廃除は、遺言による廃除が可能です。
推定相続人の廃除が家庭裁判所で認められれば、遺留分まで剥奪することができますので、要件は厳しいですが非常に効果的です。
しかし、この排除を利用するには「遺言執行者」の選任が必要となります。
そこで、遺言による書き方をご紹介いたします。

【文例】
第●条 遺言者の長男○○○○(生年月日)は、遺言者を常に馬鹿親父と罵って侮辱し、しばしば遺言者に殴打する暴力を加えるなど虐待を続けるので、遺言者は長男を排除する。

第●条 遺言者は、遺言執行者として下記の者を指定する。



住所 大阪府大阪市中央区○○町○ー○ー○
氏名 ○○○○
生年月日 ○年○月○日



相続法改正で遺言書のルールは大きく変わる

1.財産目録は手書きでする必要がなくなる。
2.財産目録はパソコンで作成可能に。
3.添付財産目録は通帳や不動産登記簿謄本のコピーでよくなった。
このように、従来まで全て自署することが求められていましたが、
平成31年1月13日より施行された改正ルールでは自筆証書遺言の方式が緩和されました。
より、使いやすい制度設計となりました。しかし、依然として世間的には浸透しているとは言い難いので、是非お気軽にご相談ください。